| 〜(3)〜 疲労と緊張のあまり抗うこともできず、レゴラスはアラゴルンに導かれる まま木々の間を進んだ。 やがて水の流れる音に向かっていることに気がつくと、彼のなかで 屈辱感が燃え上がり、足を踏ん張って立ち止まった。 「私を清める気ですか」 吐き気がして、そうつぶやいた。 「あなたは私が汚れていると思ってるんだ」 エルフが抗う前に、アラゴルンは彼を胸に抱き込んだ。 抵抗しようと思っていたレゴラスはしかし、胸の中に押し付けられて 人の子のやわらかな体臭を吸い込んだ。 「汚れているなんて思ってない」 アラゴルンの声がレゴラスの耳元で響いた。 「お前がされたことの忌まわしい記憶を洗い流そうとしただけだ。もし 嫌なら、無理強いはしない」 このままアラゴルンの胸に抱かれたままでいる、という考えはとてつも なく誘惑的だったが、人の子の云うことは正しかった。 レゴラスはあの出来事の痕跡を拭い去りたかった。心から、そして 身体からも。 彼はアラゴルンの胸の中で頷くと、身体を離した。 アラゴルンはしばらくの間、注意深く彼を見つめて、それからレゴラス の手を引いて川の淵へ向かった。 レゴラスは心もとなげに立ち止まった。 今まで自分の身体を恥じたことは一度もなかったが、アラゴルンがあの 陵辱について気づいていた、と知った今となっては、裸になることに 躊躇いがあった。 ハルディアとエルフ達によってつけられた傷自体はもう治っていたが、 彼らの触れた跡が何らかの証拠をその肌に残しているのでは、と レゴラスはまだ恐れていたのだ。 「アラゴルン、私は−−」 「恥ずかしがることはない」 アラゴルンが優しく云った。 「お前の美しさは誇りこそすれ、何ら気に病む必要はないぞ」 彼はレゴラスに歩み寄り、エルフの上着の襟元をゆっくりと寛げ 始めた。 レゴラスは彼をじっと見ながら、身体を震わせた。それは恐れのせい でもなく、冷えた気温のせいでもなく。 前回、他者によって脱がされた時とは何という違いだろうか。 アラゴルンの手は思慮深く、優しかった。 上着がゆっくりとレゴラスの頭の上に引き上げられる。 ほんの少し躊躇ったあと、アラゴルンは柔らかなシルクの下着の裾に 手をかけた。 レゴラスはアラゴルンの目の前で胸が露わになるのを、自分の腕で 隠したくてたまらない思いに駆られた。 「奴に触れられたことなど忘れろ」 アラゴルンが彼を見上げて、ぶっきらぼうに云った。 「ハルディアが、お前の許し無しにこの美しい身体を”見た”という ことだけで、奴を殺してやりたい」 「彼には他にも仲間がいたんです」 レゴラスが唐突に云った。何故自分が屈服させられたのか、説明 しなければ、という思いに駆られたのだ。何故、彼らに従ったのかを。 「あいつら全員と戦うことはできなかったんです、アラゴルン。でも私は 何とかしようとして、私は−−」 アラゴルンの指が唇に押し付けられた。 「分かってる。俺に対して、自分を守る必要はない。分かってるから」 「どうして奴らを止められなかったのか、あなたに分かって欲しいんです」 レゴラスは恥じ入りながらも、そう云った。 レゴラスの肩に向かっていたアラゴルンの腕が、空中で拳を握り締め、 身体の横に落とされた。苦痛に満ちた表情がいっそう暗くなる。 「奴らはきっと報いをうける」 彼は静かに云った。 その言葉に、レゴラスの身体を奇妙な喜悦の震えが走り抜けた。 彼はいつも、アラゴルンに守られ、その庇護のもとにあるというのは どんな感覚なのかを想像していた。 今なら、わかる。それは例えようもない快感だった。 彼はアラゴルンに背中を向けると、ブーツとズボン下を脱ぎ捨てた。 アラゴルンの視線が、まるで天頂の太陽の光のように注がれる。 歪んだ欲望を孕んだ視線と、この心遣いのこもった視線の、何という 違い。 意識しながら、レゴラスは浅い流れの中に入っていき、水が腰の高さ にくるところまでしゃがみ込んだ。 手のひら一杯の砂を掬い上げて身体を擦り始めた時、水音が聞こえた。 見上げて、アラゴルンもまた服を脱いで彼のほうに近づいてくるのが 目に入って驚く。 人の子の、素晴らしく筋肉のついた肢体に、レゴラスの頬が燃えるように 熱くなった。 アラゴルンは美しかった−−傷だらけで、ほのかに体毛に覆われた その身体は。肌は日に焼け、外での暮らしが長いことを物語っていた。 彼の例えようもない逞しさに、レゴラスは思わずアラゴルンの猛る 男性自身に目をやってしまった。 慌てて頭を下げたが、少し遅すぎた。 アラゴルンが静かにくすくすと笑った。 「俺の身体は、お前の美しさに対する免疫がないのだ。本当だ」 そう悲しげに云うと、流れの真ん中にいるレゴラスの隣にやってきた。 レゴラスの肩にそっと手を置く。 「しかし、いくらお前の身体に見惚れているからといって、この機に つけ込んだりはしない。絶対に」 レゴラスは、アラゴルンのその予期せぬ言葉に驚いて顔を上げた。 「分かっています」 激しい視線とかち合って、そう答える。 もうこれ以上失うものは何もないと感じながら、云った。 「だけど、もし私が別に構わない、と云ったら?」 アラゴルンは無言のまま、ただ彼をじっと見た。 沈黙が長引くにつれ、レゴラスは己の愚かさを深く恥じた。 アラゴルンはよき友として、彼を助けようとしてくれているのだ。この 人の子にはすでに、裂け谷で彼を待つ美の象徴がいる。 もう他には必要ないのだ。 「ご−−御免なさい」 レゴラスが弱々しく云った。 「今の私は歪んでいます」 アラゴルンは黙ったままで、レゴラスはますます顔が赤くなった。 しかしエルフが立ち上がろうとすると、強く無骨な腕が彼を止めた。 レゴラスは再び流れの中に身体を戻しながらも、目をそむけた。 自分の身体の周りで水が渦を巻くのを見、流れ過ぎてゆく落ち葉を 数える。 アラゴルンが流れの中から一握りの砂を掬い上げて、それで優しく 背中を擦り始めると、彼はびっくりして飛び上がった。 最初のうち、レゴラスは彼を洗い流すその手に緊張していた。しかし アラゴルンが彼の無分別な誘惑に対して怒っていないのが明らかに なると、レゴラスは緊張を解き始めた。 力強い指に凝り固まった肩の筋肉を揉まれ、目を閉じる。 アラゴルンがそうして筋肉の緊張を解きほぐしてくれるまで、彼は 一体自分がどれだけ張り詰めていたのか自覚していなかった。 溜息をついて、アラゴルンの手が首の後ろに移るにまかせて頭を 前に垂れた。 余りにもリラックスしていたため、アラゴルンが発したつぶやくような 問いも不快には思わなかった。 「何人いた?」 人の子が何を聞いているのかは分かっていた。 「4人」 彼は夢うつつに答えた。 「他に、見物人がいたのかもしれないけれど。はっきりとは分かり ません。目隠しされていたから」 首にかかった手がたじろいだ。 「そして俺は、お前に、大人しく目隠しされるように強要したのか」 アラゴルンが、まるで独り言のように云った。 「お前を襲った、まさにその相手に目隠しをさせた。何と考え無しな−−」 「だってあなたは知らなかった」 身体に緊張が戻るのを感じながら、レゴラスは繰り返した。 「知り得ようもなかった。私が隠していたのだから」 痛々しげな溜息と共に、アラゴルンの指が再びマッサージを始めた。 その熟達した手つきに、緊張がすぐにときほぐされる。 「奴らは一人残らず報いを受ける」 アラゴルンが先ほどと同じ言葉を繰り返した。 「俺の血にかけて。お前に約束しよう」 その言葉に、レゴラスはとうとう顔を上げて振り返り、人の子を見た。 アラゴルンの言葉の中には何か心配以上のものが含まれている ように思えて、レゴラスはその逞しい容貌のなかにこだまするものを 見極めようとした。 「何故、私の為にそんなことを?私はあなたに、私に成り代わって 復讐してもらおうなんて思ってない」 ほんのわずかな瞬間、アラゴルンが傷ついた表情をした。 それを見たレゴラスの心臓が跳ねる。 「お前が暴行されたと知ったとき、心にナイフが突き立てられるよう だった。それに」 アラゴルンがゆっくりと話し始めた。 「お前が殺されていても不思議ではなかった、と思うとさらに恐ろしい。 ほんのわずかな時を刻む間に、かくも様々な出来事が過ぎてゆく。 俺はそれが当たり前のことだと思っていた。自分の感情を整理する くらいの時間はある、と当たり前のように思っていた。俺が求める 相手に、そうと伝えるくらいの時間はあると」 彼はレゴラスの肩にかかる金の髪の束を持ち上げ、親指と人差し指 の間で優しく扱った。 「お前が何をされたかを知って、俺にはそんな時間はないということを 思い知ったのだ、レゴラス。今まで恐れ避けていたことに向き合わ なければ、と。何故なら、もう後にはその機会はないかもしれぬから」 レゴラスの心臓が鼓動を止める。息が、肺の中で凍りつく。 「一体、何に向き合うことを恐れているんです?」 アラゴルンが両肩を掴んだ。 「これだ」 それはこの上なく優しい口付けで、もし肌に押し付けられた震える 指の感触がなければ、レゴラスはそれが夢だと思っただろう。 己が唇を優しく上下になぞる冷えた唇の下で、彼はとろけそうになった。 アラゴルンの舌が唇の間をつついて入れてくれ、と促すと、レゴラスは 溜息をついて彼を迎え入れた。 入り込む舌に抗わず、おずおずと自分の舌を絡ませる。 アラゴルンの口付けは、エルフを崇拝しているかのようだった。 レゴラスは未だかつて、そのような崇敬を受けたことはなかった。 それは、彼の中の障壁を粉々に粉砕する。ぴたりと閉じられていた 扉を開けさせる。レゴラスにもう一度、信じるという気をおこさせる。 心から、そしてすべてをかけてアラゴルンを信じるということを。 彼はアラゴルンの首に腕を廻し、近くに引き寄せた。 その行為にアラゴルンはくぐもった声をあげ、レゴラスの肩にあった 両手を離した。それらは彼のすべらかな胸をなぞりながら、固くなった 乳首にたどり着くとそこを弄び、レゴラスを声もなく身悶えさせた。 口付けが深まるにつれて彼は男の首に縋り付き、アラゴルンの舌は そんな彼の秘密のすべてを暴こうと蠢く。 アラゴルンが唇を離し、今度はレゴラスの喉元に沿ってキスを降らせる。 彼がレゴラスに触れるところすべてが、燃えるように熱くなった。 「ああ、ずっとこうして欲しかった」 レゴラスが喘ぎながら、アラゴルンの黒い髪に指を埋めた。 熱い唇が乳首を包み込んで吸い始めると、彼は荒い息を吐いた。 「アラゴルン、あなたには分からないだろうけど・・・」 「俺には分からぬなどと誰が云った?」 アラゴルンがエルフの肌の上で息をついた。 レゴラスを促して膝立ちにさせ、水際から白い腿を覗かせる。 アラゴルンは引き締まった鳩尾まで舐めるようなキスを落とし、そして 臍のくぼみのところで動きを止めた。 「俺にだって、手に入らぬものを望む気持ちくらい分かる。この数ヶ月間、 俺は彼の顔を見ながら、責め苦を受けている気分だった」 彼の舌がレゴラスの臍に入り込み、泣き声を上げさせた。 「もう苦しむつもりはない」 アラゴルンはそうして、彼の中心を口に含んだ。 爆発的な悦びがレゴラスの身体中を駆け巡り、やがてアラゴルンの 唇の中にしっかりと収められた部分に集まった。 アラゴルンがそれに舌を絡めて喉の奥に引き込むと、彼は声をあげた。 レゴラスは目を閉じて、彼に絡みつくアラゴルンの口だけを感じようと 努めた。 これが本当のことだと信じるのを恐れる一方で、アラゴルンの言葉が 頭の中で鳴り響く。 ”この数ヶ月間、俺は彼の顔を見ながら責め苦を受けている気分だった” 彼の顔。アルウェンの、ではなく、彼の。 レゴラスはアラゴルンの髪に指を絡めて、彼の昂ぶりに沿って上下する 人の子の頭の動きを追った。 ”彼はこの行為を私の為にしてくれている”驚嘆の中で思う。”私の為に”。 そして、アラゴルンは上手だった。 容赦のないリズムに責め立てられ、レゴラスは力なくアラゴルンの 肩に縋りついた。 膝が震え、崩折れそうになる。 肉を食む舌の動きの一つ一つが、彼に解放を促した。 「アラゴルン」 彼はうめいて、人の子の湿った髪の束を掴んだ。 「ああ、アラゴルン、良すぎて・・・も、もうこれ以上耐えられない」 アラゴルンがその言葉に従って彼を解放した瞬間、恩恵と災いが まるで同時に訪れた。 息を肺一杯に吸い込みながら、レゴラスは前に座っている人の子を 見下ろした。レゴラスはその感情のすべてを隠そうとはしなかった。 そうすることは彼ら双方にとって侮辱ともなるから。 アラゴルンがそこに、激しい愛情を読み取ったのがわかった。 アラゴルンはレゴラスの手を取り、水の中に彼を導きいれて、おのが 膝の上に座らせた。 「俺が忘れさせてやる」 アラゴルンが謎めいた表情で云った。 「そして、俺のことだけを思い出させてやる」 その意味するところを理解して、レゴラスが頷いた。 「私もそうしたい」 鈍い指先が、彼の秘所を注意深くなぞった。 ほんの一瞬、レゴラスは乱暴な指の記憶に身体を強張らせた。 しかし、気遣いと欲情に張り詰めたアラゴルンの顔を前にして、彼の 恐怖が和らぐ。 これはアラゴルンだ。アラゴルンは彼を傷つけるくらいなら、死を選ぶ だろう。そう確信することで、レゴラスは探るように入り込む指を 力を抜いて受け入れた。 最初の指が完全に埋め込まれて優しくそこをほぐし始めると、レゴラス は頭を屈めてアラゴルンの唇を捕らえた。 「あなたは私を傷つけない」 レゴラスは柔らかな唇に向かって囁いた。 「あいつらが私にしたようには」 「この先一生、お前に痛い思いはさせん」 もう一本の指を注意深く差し入れながら、アラゴルンが答えた。 「そう、俺に誓わせてくれ」 レゴラスは彼を刺し貫く指がそこを押し広げようとするのにほんの 少しだけ違和感を感じながら、身体を落とした。 アラゴルンが彼を完全に奪ってしまうことに躊躇いを感じているのを 知って、レゴラスはその人の子の心配を取り除くのに必要なことをした。 充血したアラゴルンの肉を掴み、秘所の入口にあてがう。 「私を奪って」 固くなった怒張をさらに高めようと扱きながら、そう云った。 アラゴルンの瞳が暗い欲望に瞬いた。もの欲しそうな息遣いが唇から 漏れる。 「本気か?」 レゴラスは頷いた。身体がその痛みを催促するように強張る。 「お願い、アラゴルン。あなたを私の中に感じたい」 指が身体から離れ、疼きだけが残されて、レゴラスは堪らなさに 唇を噛み締めた。 しかしその喪失感は長くは続かず、やがて鋼のようなアラゴルンの 肉塊が押し当てられ、ゆっくりと入り込んできた。 レゴラスは筋肉の盛り上がった肩に手を廻し、アラゴルンの屹立が 完全に埋め込まれると同時に頭を仰け反らせた。 アラゴルンが溢れんばかりに彼を満たす。 彼はレゴラスがかつて痛みしか感じなかったあらゆる部分に触れ、 優しくなだめた。 アラゴルンがその力強い腕でレゴラスの腰を掴んで、今にも引き抜き そうになるくらいにまで彼の身体を持ち上げる。 そうしてから再度身体を沈めると、男の固くなった屹立がレゴラスの 中の感じやすい部分をこすり、レゴラスの目の前で火花が散った。 レゴラスはうめき声をあげた。彼の中心が瞬時に固さを増し、二人の 身体の間でずきずきと疼く。 このようにして奪われるのがどんな感じか、想像してみたことはあった が、現実はその想像をはるかに越えていた。 アラゴルンを己の奥深くに感じる。とてつもなく、深いところに。 アラゴルンに持ち上げられてはその硬い肉塊の上に落とされ、 何度も何度も満たされて、レゴラスはすすり泣き始めた。 周囲で水が跳ね、彼らの狂おしく乱れる動きにあわせて川の水面に さざなみが立つ。 どんな反応をも見逃すまいとする人の子の瞳に見つめられ、レゴラスは 自身の弱さによってますます耐えがたく駆り立てられる、己の性的興奮 を自覚した。 皮膚の硬い手のひらに屹立した自身を包まれて、レゴラスはうめき ながらアラゴルンに乗り上げ、恥ずかしさも忘れて声をあげた。 ”これ”が、レゴラスの望んでいたものだ。 これこそが、彼が望んでいたアラゴルンの感触だ。昨日の、あの 捨て鉢になりながら抱いた妄想などではなく。 「愛してる」 彼は喘ぎながら云った。アラゴルンがその気持ちに応えてくれなくても どうでもいい。ただ、云いたかった。この行為が、彼にとってどれだけ 大切かを、ただアラゴルンに伝えたかった。 「愛してる。永遠に」 アラゴルンの瞳が燃え上がり、レゴラスのすべてを奪い尽くすような キスを仕掛けてきた。 人の子の唇の下で、頂点を迎えたレゴラスは歓喜の声をあげた。 全神経が、太陽に焼き尽くされるがごとくに熱くなる。 そしてぶるっと全身を震わせて解放し、アラゴルンの胸にくずおれた。 人の子はさらに二度ほど突き上げたあと、搾り出すようなうなり声を あげてレゴラスを引き寄せた。 灼熱の迸りに身の内を焼かれ、清められてレゴラスはうめいた。 彼らは長い間、座ったまま水の中に漂っていた。 レゴラスはアラゴルンに離れて欲しくなかった。 人の子が彼を持ち上げて注意深く引き抜こうとしたので、失望の 色を隠そうとする。 しかし、アラゴルンは彼から完全に離れたわけではなかった。 エルフを腕の中に抱き上げると、アラゴルンは立ち上がって、脱ぎ 散らかされた服のある川辺へと彼を運んだ。 そっと、アラゴルンはレゴラスを服の上に降ろし、その側に膝をついた。 「側にはいてくれないの?」 レゴラスが訊ねる。アラゴルンをどうしても離したくなくて、だけど完全に 自分のものではない彼を掴まえるのは恐くて。 アラゴルンが頬を撫で、レゴラスがその指に寄りかかるのを見て 微笑む。 「長くはかからん」 彼は呟いた。 「お前と続きをするまえに、やるべきことがある」 その言葉の意味するところを解釈するのが恐くて、レゴラスはただ 頷いた。アラゴルンが服を身に付けるのを黙って見守る。 身支度を完全に終えると、アラゴルンはもう一度レゴラスの側に 膝をついた。 「待っていてくれ」 そう云って、レゴラスの顎を掬いあげる。 「必ず戻ってくる」 エルフに優しくキスをして、彼は森の中に消えていった。 ![]() ”力を貸してくれ” アラゴルンは心で問い掛けた。それはもはや依頼ではなかった。 澄んだ声が、意識の端を揺らす。 ”わたくしは個人的な制裁に干渉するつもりはありません” 木々の間を行くアラゴルンの拳が硬く握り締められた。 ”方向を教えてくれるだけでいい” ”カラス・ガラゾン” しばらくの沈黙の後、声が答えた。 ”そこで貴方が為そうとしていることは、貴方とレゴラスの運命を 永遠に決めてしまうのですよ” その警告にアラゴルンは全く耳を貸すつもりはなかった。 彼の選んだ道は、選択肢ですらない。 彼は、”そうしなければならない”のだ。 レゴラスにこの気持ちを抱く限り、他に道はない。 そのエルフは、ハンサムな横顔を空に向け、黄昏のなかで黙想 しているところだった。 近づくアラゴルンに、エルフがゆっくりと振り返る。 驚いた様子はなかった。 人の子が彼のところにやって来ると、知っていたかのようだった。 「ロリアンのハルディア」 激しさを秘めたぞっとするような声で、アラゴルンが静かに呼んだ。 「今こそ、大罪の報いを受ける時だ」 ![]() レゴラスは空を眺めながら、待っていた。 これまで生きてきた長い長い間で、かつてないほどのこの平穏。 身体的な、そして魂の平穏だった。 永の果てに、アラゴルンがついに彼を満たしてくれたのだ。 聞き慣れた足音が近づくのに気づき、はやる気持ちをおさえて振り 返る。彼の持つエルフ特有の鋭い感覚が、夜気に漂う血のにおいを 嗅ぎ分けた。 その瞬間、彼の恋人が何をしてきたのかを悟る。 アラゴルンが森から姿をあらわし、二人の視線がかっちりと合った。 アラゴルンの罪が−−アラゴルンの”勝利”が−−その表情にはっきりと 見てとれる。 レゴラスは身を起こして、ただ彼をじっと見つめた。 人の子がすぐ側に膝をついても、彼は逃げようとしなかった。 アラゴルンが血に濡れた拳をレゴラスの顔に寄せてきたが、エルフは 嫌がって避けようとはしなかった。 「お前を愛しているからだ」 エルフの頤をなぞりながら、アラゴルンが囁く。 レゴラスは頷いた。 裂けて傷ついた、ほんのわずかにハルディアの味のする拳に口付けて、 溜息を漏らした。 「わたしを愛してくれているから」 そう、繰り返す。 彼を守るという、アラゴルンの誓いが、ここから始まった。 The End |
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