A Question of Motive (真意の問いかけ)



〜(2)〜

冷たい夜気が頭の中にもやのようにかかっていた闇を払ってくれる。
ままならない思いを抱えながら、彼は先ほどレゴラスとアラゴルンを盗み 見ていた橋へ歩み寄った。
彼らがいたのと同じ場所に立ち、欄干に肘をついて、水の流れを眺める。

「狩人はもう狩りをやめた、なんて云うつもりじゃないでしょうね」
呟くような声が、背後から届いた。

ボロミアは拳の関節が白くなるまで欄干を握り締めた。今夜はもう、どう やっても心の平穏を得るのは無理らしい。振り返りもせず、彼は答えた。
「腕のいい狩人は獲物のほうから寄って来るのを待つものだ」

レゴラスは静かに笑って、彼の横に並んで立った。
エルフはさっきと同じ格好をしていた。ボロミアは彼が全く眠っていないのだ ろうと思う。
ぼんやりとした月明かりにレゴラスの色素の薄い髪が輝き、まるで彼が 細い銀の王冠を頂いているような幻想をつくりだす。霧にけぶる光の下、 この美貌のエルフの姿は神秘的でさえあった。ボロミアは臆面もなく彼を 眺めた。

「ほらまた、そんな誤魔化しようもない態度」
レゴラスがそう云って、横目で視線を向ける。
彼の声は冷たかったが、彼を見るエルフの様子には何か頼りなさがある ようにボロミアは感じた。

「そんな誤魔化しなどあんたには通用せんだろう」
彼は正直にそう答えた。
「あんたを見る者はみなあんたが欲しくなると分かってるくせに」
自分で自分の大胆さが信じられなかったが、もはやプライドに懸けてあとへ は引けなくなっていた。
エルフの細い手が欄干に置かれている。ボロミアはそこへ手を伸ばして 掴み、手のひらを上へ向けさせた。レゴラスの手のひらの上で指を螺旋を 描くように動かすと、茶色の瞳が黒ずむのが見てとれた。
「私には誤魔化すこともできんし忍耐もないが、その代わり正直さだけはある。
あんたは真実のほうが欲しいはずだ。そうだろう?」

レゴラスの暗さを増した視線が、手のひらの上でじれったい動きを続ける ボロミアの指を追った。
「どんな真実を教えてくれるというのです?」

ボロミアがレゴラスの手首の感じやすい肌をなぞる。指先で探ったその 手首の脈拍が速くなった。
「あんたが私を狂わせるということをだ」
そう囁いて、エルフの手首を口元まで持ち上げ、指でなぞったのと同じ ところに舌の先を這わせる。掴まれたまま、エルフの手が震えた。
「あんたを見るたびに、私があんたを手に入れたくなるということもな」

柔らかい肌に開いた唇を押し付けながら、覚悟を決めて見上げる。
レゴラスは恍惚とある種の覚醒を表情に閃かせて立ちすくんでいた。しかし、 さらにボロミアの興味を引いたのは、エルフの中に感じ取った驚愕と脆さだった。
宴会の時にボロミアが軽い気持ちで口にした言葉はまさに正鵠を得ていた のだ。
レゴラスは、遠巻きに憧れを向けられることに慣れきった彼は、積極的に追い かけ回す者に対して怯んでしまうということ。これまでそれを実行に移すほどに 自信を持った、もしくはそこまで愚かな人間の男はほとんどいなかったのだろう。
どうやら幸運なことに、私はその両方だったらしい。ボロミアはレゴラスの腕の 内側の柔らかい肌に唇を押し付けながらほくそ笑んだ。

「何がそんなに可笑しいのです?」
己を失うまいとあがきながらレゴラスが訊ねる。

「あんたに触れるなんて向こう見ずな自分が可笑しいだけだ。あんたから こんな反応を引き出せるのがまさか自分だったなんてな」

レゴラスの身体がこわばり、腕が引き抜かれそうになる。
「わたしは征服の証だと?人間のお仲間に自慢するための、賞品エルフ のおつもりですか?」

ボロミアは彼を強く抱き締め、エルフの手を口元に寄せた。力強く、けれども 優しく、レゴラスの握りこぶしを開かせ、その指の一本を口の中へ滑り込ま せる。レゴラスの表情が欲望に緩むのを見ながら指に舌を絡ませ、ゆっくりと 吸った。そして口から引き出した指との間に引いた唾液の糸を舌で絡め取り ながら云った。
「あんたは人間の賞品なんかじゃない、レゴラス。十分な時間さえくれれば、私 にとってあんたと一緒にいることがどういうことなのかを教えてやれるぞ」

レゴラスの唇から溜息が漏れた。そこに含まれるのは、計り知れない悲しみ。
「ああ、でもあなたは人の子。あなたには、十分な時間なんてあり得ないでしょう」

久遠の悲しみがその言葉の底にあった。ボロミアは動きを止めた。
これこそが、アラゴルンが打ちのめされて去っていった原因なのか?
あの野伏はレゴラスにエルフの持つ不死の命を捨てることを請うて、そして 拒絶されたのだろうか?
アラゴルンとレゴラスが一緒にいる光景を思うとボロミアはいたたまれなく なった。そんなことをくどくど考えたくはない。今ここに、レゴラスと共にいる のは自分なのだ。エルフに、自分以外の全てを忘れさせるためなら持てる 力の限り何だってしてみせる。

「少なくとも、我らには今この時間がある。その貴重な時間を私のあから さまな長舌を聞くだけで潰したいか?」
彼は茶目っ気たっぷりに訊いた。

話題が変わって、レゴラスはほっとしたようだった。
「選択肢ですか」
瞳を悪戯っぽくきらめかせながら彼は言葉を返した。
「どちらかといえば、あなたのそのあからさまな舌を”感じる”ほうがいいですね」

ボロミアは己の男性自身が硬くなるのを感じた。その感覚を共有したくて、 もう一度エルフの指を口中深くに含み、唇と舌とでたっぷりと濡らす。
視線はレゴラスから決して離さなかった。膨れ上がる欲望にエルフがそれと 分かるほどに打ち負かされ、瞼を震わせながら閉じる様を見て愉しむ。
滑らかな唇が開き、短い息が切れ切れに漏れ出た。
自分が痛みを感じているのと同じ状態にまでレゴラスを追いやったことに 満足して、ボロミアはエルフの指を口から抜き出した。

「すぐに、指だけじゃない、別のところも私の舌で包んでやるさ」
そう云って、彼はエルフの美しい顔を両手で包み込んだ。
「今まで本当の意味で人の子に狂喜させられたことがあるか、レゴラス? 今夜、それを教え込んでやる。この橋の上で身悶えさせて、このボロミアの 名を口にしながら・・・」
レゴラスの隠そうともしない興奮に煽られて彼はもっと言葉を続けるつもり だった。しかしボロミアが更なる言葉を紡ぐ前に、レゴラスがキスを仕掛けた。

エルフは物怖じしなかった。ボロミアがあれだけ味わいたいと思っていた しなやかな唇がこの口付けを支配し、湿り気と熱気でもって彼の口を覆って いる。レゴラスの舌が執拗に唇の間から滑り込もうとするので、人の子は とうとう侵略を許し、喉の奥でうめきをあげた。
エルフが彼の口内を満たし、舌を絡ませ、ぬめる肉のすみずみまでを探り 愛撫するに任せる。
レゴラスは彼が思っていたとおりの味がした。スイカズラの果汁のように 甘く、つかみどころのない味。それはまさに、とふいに彼は決め付けた。
そう、不老不死の霊薬の味。

ボロミアはレゴラスのチュニックのボタンに手をかけた。どうにか、エルフの 徹底的かつ狂ったようなキスの合間ながら、ボロミアは全てのボタンを外す ことができた。両手をその下に滑り込ませ、彫刻のようなエルフの胸にある 熱く、硬いものを探し出す。
人の子がその引き締まった胸筋を揉みしだいて、それから乳首の硬くなった 蕾を摘み上げると、レゴラスの息が止まった。

「本当に、人の子にしては上手ですね」
エルフが喘いだ。

皮肉な笑みがボロミアの唇に浮かぶ。
「そして思うに−−さらなる実践が必要だな」

その実践こそ、ボロミアが切望していたものだ。もう長いこと、彼はレゴラスの 脚の間で屹立する硬い肉を思い描いていた。しかし実際にエルフのズボン下 を引き降ろしてそれを目にしたボロミアは、息を飲んだ。
その硬い昂ぶりを我慢しきれずに手で包み、上に向かってきつく扱き上げる。
レゴラスはその動きに、人の子の両肩に痛いほどしがみつき、空を裂くような 溜息でもって答えた。
ボロミアは自分の手が白い肌をまさぐるのを見ながら、レゴラスのまるで温み をもった大理石のような完璧な美にただ驚嘆した。
幽かに光る真珠の粒がエルフの中心の先端から現れる。ボロミアはその小さな 真珠の粒を掬い上げて、己が唇に運んだ。

「どんな人間なら、これを受けるに値するだろうか?」
ボロミアが大きく息をついてひとりごちた。

人の子の手の下で身体を震わせながらもレゴラスが弱々しく笑った。
「そのような人の子、ほとんどいません。ゴンドールの息子よ」

それは己の優越の意味を含んだ言葉ではない。ボロミアは理解した。
レゴラスは簡単に己の身体を与えるようなことはしまい。それだからこそ感じる 大いなる喜び。ボロミアは膝を折って、心から謝意を示した。

レゴラスが自制心を失った声が聴きたい。彼が、ボロミアこそがその声を あげさせる男になりたい。
エルフの中心に触れる唇が、それを果たした。レゴラスは幽かな叫びをあげ、 ボロミアの髪に指を埋めた。人の子がまるでエルフそのものを飲み込むかの ごとくに中心をすっぽりと口中に納める。
レゴラスは燃えるようで鋼のようで、その肌は最上級に柔らかなベルベットの ようで。ボロミアはこれまでにないほどの渇望を感じながら唇と歯で扱き、情け 容赦なく彼を愛撫した。

一定のリズムを保ち、エルフの腰の動きをそれに同調させる。ほどなく、レゴ ラスは人の子の口の奥深くまで突き入れながら、短い、静電気のような声を あげはじめた。
数分ののち、いきなり両手がボロミアの髪に絡み付いて力を込めた。彼の 頭を引き剥がそうとする。
「ボロミア、やめて−−」

しかし人の子はレゴラスの全てを欲していた。引っ張られるのに抵抗し、 エルフが諦めてボロミアの頭を両手でしっかりと抱え込むようになるまで 努力を続けた。レゴラスがうめき、自身を人の子の喉の最奥まで突き入れる。
液体の形をした熱がボロミアの舌のうしろに溢れ出した。
彼は目を閉じ、それを飲み下した。

レゴラスが身を引いて立ち上がる。エルフの顔は紅潮していた。色素の薄い ほつれ髪が赤身の差した頬に貼りついている。すさまじい欲望がボロミアの なかで膨れ上がった。
「あんたを奪いたい」
かすれ声で云う。施しを請うようなかたちになったって、そんなことはどうでも 良い。しっとりと湿った髪をなでる。
「我らがひとつになるまで、あんたの中に私を埋めさせてくれ」

柔らかい鼻声がレゴラスから漏れ出た。
「わたしも、そうして欲しい」
彼はそう認め、ボロミアの鳩尾にある紐に手を伸ばすと、さっき人の子が見せた よりもはるかに熟達した手つきで男の中心を露わにした。

レゴラスの力強い指に中心を掴まれ、ボロミアは堪えきれずにうめき声を あげた。エルフの素早い手の動きはすでに燃え上がっていた感覚を一気に 限界まで押し上げる。身体がレゴラスの手の中で早く達したいと要求するが、 自制を失いかける己をどうにか押し留めた。レゴラスの手首を掴み、動きを 止めさせる。
「もう十分だ」かすれ声で云う。
「達ってしまう前に、入れさせてくれ!」

かすかな勝利の色がレゴラスの表情を掠めた。
「なんだ、えらく簡単なんですね」
からかうように云った。

答える代わりに、ボロミアはエルフの身体を反転させると橋の欄干に 覆いかぶせるような体勢にさせた。そのきつく締まった蕾の上に、己の 男根を押し付ける。
「あんたが間違ってるってことを教えてやろうじゃないか、なあ?」
そう、先の尖った耳に低い声で囁いた。
彼は腰を曲げ、昂ぶりの先端をゆっくりと、的確にエルフの身体の狭い 熱の在処に押し進めた。レゴラスがうめき、頭を橋の上に押し付け、指が 白くなるほど欄干を握り締める。
己の言葉とは裏腹に、レゴラスの内部でゆっくりと動かしたボロミアは もう少しで達してしまいそうになった。細い腰を、傷がつきそうなほどに きつく掴む。

永遠に続く拷問のような感覚の果てに、ボロミアは完全に己をエルフの中に 収めた。繋がった部分がひくひくと震え、二人は同時に息を吐く。
ボロミアは身体を前に倒してレゴラスの、汗でしっとりと湿ったすべらかな うなじに口付けると、そのまま腰をうしろに引いた。極上の摩擦感が神経を 攻め立てる。自分でも止められなくなって、前に突き出し、お互いにうめきを あげた。そしてもう一度うしろに引く。
しかし今度は前に突き入れる時に、彼は少し角度を変えてみた。身体の 下のレゴラスが跳ね、その唇からエルフ語の喜悦の声が漏れ出た。

勝利感と満足感がボロミアの突きに拍車をかける。もっとレゴラスに声を 上げさせたいという貪欲な欲望が芽生えた。必死に自制心をはたらかせて、 人の子はエルフを追い上げたいという己の愉しみを一旦横へ押しやった。
そして情け容赦なく、レゴラスの快感の源を擦り上げ、エルフの淫らな反応 をもっと、もっとと要求する。

肉欲では収まらない感情が彼の内で確実に芽生えていた。永遠に手に入れて いたい、そうボロミアは自覚する。彼の下で軋むレゴラスの身体は、たった一夜 限りで満足できるものではない。彼にはエルフが必要だった。これから数える いくつもの夜に。きっと、永遠に。未来永劫に。

「ああ、ボロミア!」
レゴラスの鋭い叫びが、情熱の矢のように人の子の男根にダイレクトに 突き刺さった。エルフががくんと反り返って肉を包む肌がびくびくと震え、 ボロミアの自制心が粉々に弾けとぶ。
レゴラスをしっかりと抱え込むと、彼は焼け付くような熱の中に最後の 一突きを入れた。耳と感覚で、レゴラスが達したことをとらえる。すぐに 急な締まりによってボロミアも最高潮を迎えた。
地を這うような叫びをあげて、彼はエルフの中に己を注ぎ込んだ。

レゴラスの背中に倒れ込み、橋の欄干に寄りかかりながらエルフの身体を 優しくあやす。彼らの眼下では川の水がこの先の滝に向かって流れの速さを 増していた。

「レゴラス」
いくぶん落ち着きを取り戻すと、彼は囁いた。
「こんなままでは終われない。あんたはもう、私の血の一部だ。もう離れる ことなんてできない」

流れを見つめるエルフの表情は静けさを取り戻していた。人の子の熱情的な 眼差しに、視線を合わせようとはしない。
「それが今夜であれ一年後であれ、こんなことはどのみち終わってしまうの ですよ、ゴンドールの息子よ。そのお心は閉じたままにしておいたほうが賢明 です」

ボロミアの中で怒りが湧き上がった。
もうすでに手遅れなのだ。彼の心はもはや、彼のものではない。
「あんたは私の気持ちに答えてみようと思うことすらできんのか?」
苛立ちを感じながら、そう訊ねる。

「できません」
レゴラスが素っ気無く云った。ボロミアが常に憤りを感じる冷たく超然とした 響きが、エルフの言葉に霜のように降りた。
「あなたは人の子で、わたしはエルフ。時の流れが我らを分かちます」

しかし、レゴラスは彼らの相対的な年齢差のことを云っているのではなかった。 突然、ボロミアは理解した。
いつか、彼は死ぬ。レゴラスは彼が去ったあとも生き続けるのだ。
彼は初めて見るような気持ちでエルフを見つめ、そこに頑ななまでの自己防御 の姿を読み取った。

「レゴラス」
顎を掬い上げて茶色の瞳に視線を合わせながら、優しく語り掛ける。
「もし私がどうにかして訪なう死を先延ばしにする力を持ったなら、あんたは 私を愛せるようになると思うか?」

「そんな問いかけ、あり得ない!」
エルフが叫んだ。激情に頬が紅潮する。
「起こりもしないことをうそぶくのはやめてください!」

ボロミアは引き下がらなかった。
「もしもあり得るなら」
辛抱強く繰り返す。
「私も、不死の身体になれたなら−−私を愛してくれるか?」

レゴラスが再び口を開くまでに、海の量ほどの水が橋の下を流れたかのような 時間が過ぎた。
そして、ようやく発せられた彼の声は、遠くの滝の音にかき消されるほどに 小さかった。
「ええ、ボロミア」
そう囁く。
「もしどうにかしてそれがあり得るなら、できるような気がします」

ボロミアは目を閉じて独占するようにエルフを腕の中に包み込んだ。
暗い闇が頭の中を曇らせていたが、彼は気付かなかった。

レゴラスは、ボロミアを愛せるかもしれない、と云った。それだけが、彼の 聞きたかった言葉だった。
旅の仲間は明日出発する。彼はエルフの髪に口を寄せながら微笑んだ。
彼とレゴラスの未来は、このエルフが思うほど冷酷なものではない。
全く、そんなことはない。
生涯を共にすごす方法は、すぐ手の届くところにある。それは、ぶら下がって いるではないか。ボロミアには分かっていた。
そう、ホビットの首に掛かった銀の鎖に。


The End


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