The End of Beauty (美しきものの終焉)


〜(2)〜



片割れの口から漏れるイビキが一定の調子に落ち着いてしばらくする頃、アラゴ ルンは見るとはなしに星空を見上げていた。
ギムリの云った言葉が、深いところで彼を苛んでいた。
一旦押し寄せた闇は自分をがんじがらめに絡めとってしまうだろう、とアラゴルン はもう長いこと考えていたから。
己の内に存在するその闇が、やがては広がって他者をも蝕んでしまうかもしれない という可能性に彼は絶望を感じた。

そして幾度も、今日自分がレゴラスにつけた傷のことを思い返す。
あんな風に傷つけるなど、一体自分は何様のつもりだ?
レゴラスはこのミドルアースの源より生まれ出でしもの、山々が朽ち果てたあとも この地に生き長らえるであろう神秘の種族だ。
それに比べ、自分はただの人の子でしかない。
それも、ただのちっぽけな存在でしか。

彼は上掛けを撥ね退けた。
足早に森の中に入っていったが、あのエルフがそう簡単に見つかるとは予想して いなかった。
しかし、レゴラスは夜営地の近くにいた。静かに、敵を見張りながら。
その姿に近寄るにつれ、さっきとはまた違った種類の恐怖にアラゴルンの足取りは 速度を失う。
近寄る人の子の方を向いた高い頬骨に月明かりが青白く光る。
彼を見るレゴラスの瞳には恨みの色はなかった。その端正な表情からは全ての 感情が消えていた。

「あなたを脅かすつもりはないのですよ」
静かに、レゴラスが云った。

「そのようなこと、考えたこともない」
人の子が答える。

聞いていないかのようにエルフは続けた。
「わたしを見るあなたの目には、あなたが大切にしたいと思っている全てのものの 終焉が映っているようだ。わたしはあなたの心の平安を脅かしているのでしょう。 こちらにそのつもりはないのですけど」
レゴラスの表情がわずかに歪んだ。
「あなたをぎりぎりのところまで追い詰めているのはわたしじゃない。ましてや、 そこから踏み外させようなんてことも」

アラゴルンは湧き上がる自己弁護の怒りを押さえ込んだ。
「考えすぎだ」
苦々しく吐き捨てる。
「俺は謝りにきたのだ」

レゴラスは遠くを見やった。
そうして、発された彼の声は、ほとんど諦めを含んで野伏の耳に届いた。
「あなたがわたしを欲していることは知っています。話す言葉のひとつひとつに はっきりと顕れている。お願いですから、あっちへ行ってください。あなたが 我を忘れてさっき以上にわたしに腹を立てる前に」

一陣の風にあおられた髪が、呆然とするアラゴルンの顔を弄った。
言葉を失い、エルフに反論できない己を思い知る。
その通りだ。彼はついに認めた。
俺はレゴラスを欲している。
他のどんな思いをも押し流してしまう激しさで。
このままここにいては、彼に残された最後の良心への裏切りを甘受することに なってしまう。

彼は引き返そうと足をあげ、だが動きを止めた。
レゴラスの様子に眉をひそめる。
ああ、しかし裏切りというなら。驚きながらも彼は見出してしまった。
それはアラゴルンだけのものではないではないか。
エルフの表情はおし隠された感情に強張っていた。
切望、思慕、恐怖−−一体レゴラスは自分がどれだけ剥き出しにしてしまって いるか、気付いているのだろうか?
しかしそんなことはどうでも良かった。
エルフは一言も発しなかったけれど、アラゴルンには分かっていた。もし自分が今 夜営地に戻ってしまったら、もう本当のレゴラスを知る機会も、彼のあらゆる美しさ を露にする機会も、永遠に失われてしまうであろうということが。
自分自身の愚かさを嘲りながら、彼は出し抜けにエルフを捕らえ、身体を引き寄 せてしっかりと抱き締めた。

彼の選択は正しかった。
レゴラスは、彼のものだ。
これまで、ここまで正しいと思えたことが他にあっただろうか。
身体中の神経を焦がすほどに強烈なその直感に驚きを感じつつも、アラゴルン は何故そこに辿り着くまでにこれほどの時間がかかったのか不思議に思う。

「俺は見失っていた」
大地の色に燃え立つような双眸を見据えながら、彼は野太い声で囁いた。
「この世に残された希望を見ることができなくなっていた。自分達が一体、何の ために戦っているのかを見失っていたのだ。二度とお前に腹を立てることなど ありはしない、美しきレゴラス。我が友。我が光よ」

アラゴルンがゆっくりと、しかしわざと下半身をエルフのそれに擦り合わせると レゴラスは大きく目を見開いて息を吐き出した。
秀麗な顔は真っ赤に染まり、お互いの熱が悩ましげに触れ合わされる摩擦感 に茶色の瞳が霞む。
しっとりと濡れた唇が開く様に、アラゴルンはその柔らかな肉に己を包み込まれ るところを想像して、自身が欲望に膨れ上がるのを感じる。
「もうずっと」
頭を屈めて感じやすそうに尖った耳を啄ばみながら掠れ声でつぶやく。
「お前という誘惑に打ち勝とうとしていたのだがな。その甲斐も無かった。
私の負けだ」

と、ほっそりとした腕が、男の頭を掴んで引き上げた。
「こんなことは望んでいない」
レゴラスがあえぐ。
己の欲望を押さえ込もうとするエルフの身体は震えていた。
「あなたの心からアルウェンを追い出そうなんてつもりはないんです」

アラゴルンの唇がエルフのそれを覆い、息を奪う。
「おまえはアルウェンを追い出したわけじゃない」唇に囁きかける。
細いからだが、震えた。
「おまえの存在が、彼女に取って代わったのだ」

レゴラスは否定の言葉を発しようとしたが、アラゴルンがそれを声にはさせな かった。
唇をレゴラスの顔に優しく這わせ、輪郭やきめの細かい肌を辿る。
そして震える瞼が閉じられると、その柔らかな皮膚の上にそっと口付けた。

とうとう、レゴラスが反応した。
火照った手がアラゴルンの下肢に下りてきて、近くに引き寄せる。野伏はうめき、 エルフの上衣のへりに指を伸ばした。
中に滑り込んだその手が二つの小さな突起を探し出して輪を描くように弄ぶ。
アラゴルンの荒れた指先に固くなった乳首をやんわりと抓まれてレゴラスは くぐもった声をあげ、身体をくねらせる。
押し付けられていた中心が、びくびくっと反応した。

「そんなふうに苦しめないで、アラゴルン!」
人の子の指に抓まれ、引っ張られてレゴラスの身体が跳ねた。
最後にもうひと抓りしたのち、指はそこから離れて軽く掠めるようにエルフの薄い 下腹部へと降りていった。
熱を持った大きな掌が脚通しの上からレゴラスを包み込む。
エルフは身を震わせた。

「まるで典雅なる楽器を奏でているようだ」
アラゴルンが云った。
「こうして指を曲げて−−」エルフがあられもなく喘ぐ。「−−こうして強くかき 鳴らすと−−」レゴラスがよがり声をあげる。「−−聞いたこともないような 妙なる美しい音を紡ぎだすことができる」
アラゴルンは脈打つ屹立に手を絡め、その下に隠れた敏感な双球を指でなぞった。
硬く勃ちあがった中心をもっと絞り上げようと貪欲に扱きつつ、レゴラスがそれに 反応する姿に酔いしれる。
「お前は美しい」

「もう、耐えられない!」
突然、レゴラスが叫んだ。
アラゴルンの手を押し退けると、草むらの上に膝をつく。
そうしてアラゴルンの脚通しが引き下げられ、どくどくと脈打つ男の長剣は冷えた 夜気に晒されてさらに充血を増した。
レゴラスがそれを手で包み込み、人の子の巨大な昂ぶりを間近に眺めて畏れに 似た表情を浮かべる。

手が、金髪の頭の上に置かれた。
「俺を味わってみろ」
アラゴルンが掠れ声で駆り立てる。
エルフは物怖じしなかった。
彼の柔らかな、湿った舌がアラゴルンの肉の先端に熱心に絡みつく。野伏が 喉の奥で低くうめいた。頭を仰け反らせ、目をきつく瞑って、今にもくず折れそうに 震える脚を踏ん張る。
レゴラスは彼をじらしているのではなく、崇拝を求めているのだ。
唇と舌とが人の子の屹立に沿って燃えるような痕を残してゆく。
そして、エルフが崇めるような鼻声を鳴らしながら人の子をその口の中に完全に 収めると、アラゴルンはもう少しで達しそうになった。

「レゴラス・・・」
エルフの絹のような舌に己自身を絡め取られ、ようやく云えたのはそれだけで。
アラゴルンは金の髪を鷲掴むと狭くて暖かなレゴラスの口内に激しく打ち付けた。
そうして、エルフが彼を最奥に導きいれた、目も眩むような瞬間。
アラゴルンはどうにか声を抑えながら、ぶるっと身震いして己を解放した。
座り込んだレゴラスが濡れ輝く彼の肉棒の先端に口付ける。
もの問いたげに野伏を見上げる彼の唇には、銀の滴がきらめいていた。

アラゴルンはそのすべらかな頬に触れ、エルフが慰撫する指先に寄りかかって くるのに微笑んだ。
「これほどの幸運を得られるとは、どういうわけだ?」
それは自分自身への問いかけのつもりだったのだが、レゴラスがそれに答えた。 「数々の出来事を経た今、あなたの心は悲嘆に暮れています」
そう云って、戦いに荒れたてのひらに唇を寄せるとそっと口付けた。 「あなたを光のもとへ連れ戻したいのです、ゴンドールの王よ。わたしの身体の 内に平穏を見いだし、それがあなたの力とならんことを」

無言のまま、アラゴルンはレゴラスを柔らかい地面に押し倒すと己の身体を 弓人の脚の間に収めた。
素早く脚通しを取り去り、欲情に燃え立つお互いの熱を溶け合わせる。
アラゴルンは自分の男根とレゴラスのそれとを擦り合わせ、エルフが息を飲む のを聞いた。人の子の身体中の血が沸騰したが、本当に欲しいのはそれだけ ではない。
彼は己の屹立が双丘の間に入り込む位置まで、細い身体に沿って少し下に自分 をずらし、そしてきつく締まった入口に押し当てた。

茶色の双眸が強い期待に震えながら彼に据えられる。
今、この瞬間ほど、己の抱く夢のような平穏に到達できる、とアラゴルンが思えた ことがかつてあっただろうか。
レゴラスの唇をやさしく啄ばみながら、アラゴルンは二人の身体をひとつに溶け 合わせた。

エルフのそこは、信じられないくらいに狭かった。
ここまでの至福感をアラゴルンは他に思い出せない。
快感に我を失って、彼は深く激しく抽挿を繰り返し、冷えた大地の上でひとつに なった身体を揺らした。
腰をくねらせ、角度を変えると、レゴラスの瞳から焦点が消え、くぐもった悲鳴が 唇から漏れ出てくる。
エルフの思慮深い自律の壁になにものをも隠されたくなくて、アラゴルンはその 敏感な一点を何度も何度も突き上げた。
そしてレゴラスの張りつめた中心を手の中に包み込むと、彼を貫く男根の動き に合わせて扱き始める。
とうとう、レゴラスがかろうじて保っていた冷静さの、最後の砦が粉々に砕け散っ た。

敷き込んだエルフの身体が跳ね、自らをより深く野伏に貫かせる仕草に、アラゴ ルンが息を呑む。
彼は唸るような声をあげながら額を相手の額の上に寄せた。
刹那、銀色に光るものが眼前を掠める。
身体が、凍りついた。

夕星の首飾り。

上衣の隙間からぶら下がったそれは、レゴラスと彼の間で揺れていた。
まるで、光る涙の粒のように。

「アラゴルン−−」

揺れる銀の上で二人の視線がかち合う。
レゴラスはじっと動かなかった。拒否されることを黙って受け入れようとする表情 で。
人の子には分かった。彼は、もし野伏が望むならばアラゴルンのことをきっぱり 諦める気だ。
信じられない気持ちでアラゴルンは首を横に振った。

「そんなことはさせない」
そう、言い放つ。
「レゴラス、俺とお前はもう多くのものを犠牲にしすぎた」
彼は首飾りを頭の上から外すと、草むらの上にそっと置いた。
「もし俺が明日斃れるとしたら、今夜のこの思い出こそが、闇への道のりへの 慰めとなろう」

一筋の涙が、レゴラスの目尻から流れ落ちた。
アラゴルンが屈み込んでそれを唇で掬い取る。
「そんなことを云われたら、迷惑か?」

レゴラスが否定のかたちに首を振る。その瞳は濡れ輝いていた。
「森が」
そして驚きに口を開く。
「アラゴルン−−森が、わたし達のために歌っています!」

野伏はエルフのしっとりと湿った髪に顔を埋めた。自責の念が押し寄せる。
自分は、これほどの森の神秘からレゴラスを引き離そうとしていたのだ。
何という愚か者だったのだろうか。
エルフとその下の大地の匂いを思い切り吸い込み、彼は再度ゆっくりと腰を 動かし始めた。新たに、強烈な快感が身体中を駆け巡る。
今なら自分には美しきものが分かる。
それは一度として自分の前から消えてしまってはいなかった。単に、自分が恐れ て目をそらしていたところにずっと存在していたのだ。

ゆっくりと、注意深く、アラゴルンはお互いの快感を追った。
その包み込むような力を借りて、とうとう弓人が達した。
レゴラスの見せていた強さが慄くような傷付きやすさに取って代わるのを見ながら、 アラゴルンはもうこれ以上己を抑えるまい、と決めた。
エルフの中により深く突き入れ、レゴラスが辛うじて保っている絶頂感の端を 捉えて歓喜の叫びを上げさせる。
彼が身震いした瞬間、レゴラスは彼にしがみついた。
そうして、ようやく頭を持ち上げたアラゴルンは、愛情を湛えて微笑むエルフの 美しい顔に、息を奪われた。

「あなたが人生の中でたとえどんな恐怖に向き合おうとも、勇ましきわたしの王よ、 あなた自身が信じさえすればいつだって美しきものを見いだすことができるの ですよ」

平穏が、まるで外套のようにアラゴルンの両肩を包み込んだ。
「もう決して己を偽ったりはしない」
そうつぶやき、エルフの唇に触れる。
「この先何があろうと、俺は自分がもう失くしてしまったと思っていた光を見つけた のだ。愛している、レゴラス」
目の前のエルフから陽光のように溢れ出る喜びを噛み締める。
「お前が、俺にとっての全てだ」

ならば、闇はどうなる?
彼は例の指輪と、自分自身の中に潜んでいた頽廃に思いを巡らせた。
レゴラスをしっかりと抱き寄せながら、口元を引き結ぶ。
すべての事情は、変わったのだ。暗闇よ、来るなら来るがよい。
もう自分は決して、闇の中を歩むことはあるまい・・・。



The End

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