Release From Obligations  (義務からの解放)



彼はちっとも休めなかった−−様々な考え事と、悲しみのせいで。

彼らエルフという種族の、美や生命の不思議に対して何と敏感なことか。
それは苦痛や醜さにもがく他の種族からすれば及びもつかない境地だ。
レゴラスは寝床の中で落ち着きなく寝返りを打った。
あの聡明で、揺るぎない強さを持っていたガンダルフを恐怖の最中に失った ことは、このエルフにとって耐えがたい悲しみだった。
音ひとつ立てず、彼は掛布の下から滑り出ると眠ったままの仲間達を後に した。
肉体的になら多分、慰めを得られるだろう、と半ば諦めの気持ちで考えなが ら・・・。

弓と矢筒を肩に掛けてレゴラスは静かに木々の間を歩き、やがて丁度良い広場 にたどり着いた。
数ヤード先に適当な的を見つけると、一息ついて気持ちを落ち着けてから最初の 矢を射た。

番え、引き、射る。番え、引き、射る。
その繰り返しが彼の心を鎮め、死への恐怖や責任についての思い煩いを取り 除いてくれる。
彼は自分自身の果たすべき役割の重大さをほとんど頭から追い出すことが できかけていた。ほとんど全て・・・。
そして余りにも集中していたため、本来鋭いはずの彼の感覚は近づく気配を 捉えそこなっていた。

「ろくに休息もとらぬこの姿勢こそが、闇の森の王子の弓の名手たる所以 なのだな」

レゴラスは思わず息を呑み、木陰から歩み出るアラゴルンを認めて弓を下ろした。 人の子の顔は疲れ、深い皺が刻まれていた。
それでも野伏は王子の表情に浮かんだ狼狽に気付いて愉しむような微笑を 浮かべる。

「オークを仕留めようとしているのだろう?」
アラゴルンが首を傾げた。
「現実のものなのか、個人的なものなのかは知らんが」

思わぬ邪魔に取り乱し、レゴラスは探るような視線から目をそらした。
「わたしは単に、仲間達の無事が維持できることを確かめているだけです」
落ち着いた声でそう答える。
「わたしの狙いの正確さがこの旅の成否に大きく関わってくるでしょうから」

アラゴルンが広場に入ってきた。
「その肩に仲間達への責任を重く感じるか。これは俺達みなが背負うべきもの なのに、お前はかなり個人的なものとして捉えているのだな」
そうつぶやいて、傷だらけの手が白金の髪をそっとうしろに撫でた。
「誇り高きエルフよ−−全てがお前の肩に掛かっているとでも?」

とっさにレゴラスの唇から反駁の言葉が漏れ出ようとしたが、髪に差し込まれた 男の手にいきなり強く掴まれ、頭を仰向けに引かれて出口を失った。

「全てが思い通りになるとでも?」
アラゴルンは思いもかけぬ凶暴さを湛えた声で云った。
顔をぐっと近づける。その視線が、レゴラスの顔のまろみをしげしげと追った。
「時には、自分自身に屈服することも必要だろう−−」

「そんなこと、できない!」
身体中の筋肉を緊張に軋らせてレゴラスが鋭く言い放つ。

「できない?」
アラゴルンが頭を下げ、露になった白い喉を舐め上げた。
「−−それとも、したくない、かな?」

濡れた舌に感じやすい肌をねぶられ、首筋をかるく噛まれてレゴラスは震えた。
「もう誰も倒れたりしない」
人の子が耳朶を吸い上げるのに、どうにか息混じりの声を上げる。
「わたしがいる限りは」

怒りも露に、頭をもたげたアラゴルンが苦悶に満ちた茶色の瞳で見下ろした。
「この旅の間に誰が生き延びて誰が死ぬかなんて、お前に決められることでは ない。お前に運命を左右する力なぞないのだ、誇り高きエルフよ」

抗議の喘ぎを無視し、アラゴルンは身体を強く重ねてきた。
「そして、今夜起こることもだ」
そう云って、唇もぶつけるように重ね合わせる。

予期せぬ接触にレゴラスは抗い、熱い舌がこじ開けようとする唇を懸命に引き 結んだ。
しかし髪を掴むアラゴルンの手は身体を離すことを許さず、身体をまさぐる もう一方の手を胸に這わせて乳首に軽く触れ、レゴラスに喘ぎを上げさせる。
その突破口をアラゴルンは待っていた。
気がつくとレゴラスの口内は蠢く舌に奪われ、余すところなく犯されていた。
息も奪われ、男のものに取って代わる。
着衣の上から乳首を抓まれ、鼻声を上げそうになったがその音は漏れ出る 前に飲み込まれた。

「そうだ」
アラゴルンが唇を離し、すべらかな顎に歯を立てながらざらついた声で云った。
「己を解き放て、レゴラス。声を聞かせてくれ」

「できない−−」

逞しい腕が離れた、と思ったら尻を鷲掴みにされて腰を擦り合わされる。
脚通しの下の鋼のようになったアラゴルン自身がエルフのぴったりとした服の下 のそれと触れ合う。
互いの昂ぶりを擦り合わせる野伏の熱い息が、エルフの耳朶にかかった。

「俺の欲しいものをくれ、レゴラス」
そう囁き、熱を持って答え始めるそこに下半身をなすりつける。

苦痛と恍惚に美しい顔を歪ませながら、レゴラスは唇を噛んだ。
そして細い指をアラゴルンの顎に生えた無精髭に伸ばしたが、人の子はひょい と頭を仰け反らせてそれを避けた。

「お前は何もしなくていい」
アラゴルンは強い口調でそう云うと、エルフの尻を掴む指に痛いほど力を込めた。
「俺が、今は全てを支配する」

レゴラスの瞳がカッと燃え上がったが、アラゴルンは抗議する隙を与えなかった。
エルフの脚を背後から払うと後ろに押し倒し、二人は重なるように森の大地に 倒れ込む。レゴラスは野伏の下に敷き込まれた。
エルフがありったけの力でもがき、身体の大きな人の子を押し退けようとする。
お互いを押さえ込もうとして上がる呼吸が夜気に溶ける。
ついにレゴラスが両手首を頭の横の土の上に叩きつけられ、鋭い不満の叫び を上げた。

挑戦的な光がアラゴルンの瞳に瞬いた。微妙な愉悦の笑みを湛える。
「云ったはずだ、レゴラス。今夜起こることに対してお前は何の力も持たぬ。
今夜、すべてを成就させる責任を負うのは−−」
彼は下半身を擦り合わせ、エルフに詰まるような喘ぎを上げさせた。
「−−俺だ」

覆い被さったアラゴルンの口がレゴラスに奪うようなキスを仕掛ける。
己の意思に反し、レゴラスは人の子の唇の下で嬌声を上げてしまった。
裏切り者の下半身が持ち上がり、助けを求める。
アラゴルンはエルフの両腕を頭の上に移動させて片手で纏め上げた。
レゴラスを注視しながら、空いた方の手を反り返る身体に這わせて反応を 探る。

アラゴルンに触れられ扱かれ、嬲られ抓まれて起きる反応を余すところなく 見られ、レゴラスの顔が恥心に燃え上がる。
鋭い灰色の双眸は、耐えがたいことに、何物をも見逃さなかった。
そしてがっしりとした指が脚通しを引き降ろして彼の充血した昂ぶりを剥き出し にすると、レゴラスはぎゅっと目を閉じた。
即座に、顎を掴まれて目を開く。

「目は開けたままにしろ!」
アラゴルンがうなるように云った。
「全てを見せてくれ、誇り高きエルフよ。俺はお前の感じる全てが見たい。 お前の抱く欲望の全てを」
手が顎を離れ、熱を持った中心に絡みついた。
レゴラスの瞼が震え、額に汗が浮かぶ。
「そうだ」
アラゴルンがつぶやき、手をゆっくりと上下させた。
「感じるんだ、レゴラス。愉しんでみろ」

男の指が屹立の先端で円を描き、溢れ出た体液を全体に塗りつけられて レゴラスはうめいた。
手の動きがさらに強く、さらに速くなるにつれ、レゴラスの腰は人の子の手の 中で跳ね、叫びに近い声が漏れ出る。

「お願いです!」

アラゴルンはその満たされぬうめきを無視して彼から手を離し、上に乗り上げた。
素早く自分の脚通しを引き下げると荒々しいうなり声を上げながらレゴラスの腿 の間に身体を割り込ませる。
太い指に秘所を刺激され、レゴラスは本能的に身を引こうとした。
アラゴルンは両腕を離すとエルフの腰をしっかりと掴み、彼の身体を固定した。

「俺を拒んだりはしないだろう」
野伏はかさついた声で云って、もう一度後ろの蕾に指を這わせた。
「お前だって、俺に拒まれたいとは思わんだろうしな」

そうして一本の硬い指がゆっくりと押し入ってきて、僅かに曲げられたそれが ある一点を刺激し、彼に恥も外聞も無いよがり声を上げさせるころには。
レゴラスはもはや抗えない己を思い知っていた。
指がもう一本、さらにもう一本と加えられ、レゴラスは今にも暴発しそうになって 頭を地面に擦りつける。
と、指が引き抜かれた。
手に顎を掴まれてそのまま固定される。

アラゴルンが彼を見下ろしていた。
汗に塗れたその顔は、ほとんど怒っているような激しさを湛えていた。

「俺がお前を奪うあいだ、俺を見ていろ」

その言葉にレゴラスはうめいた。彼の疼く中心はお腹につきそうなほどにそそり 立っている。
エルフの喉元を押さえながら、アラゴルンが固い蕾に己の男根を押し当て、そう してゆっくりとレゴラスの熱の内側へと押し入ってきた。

鋼の欲望が完全に埋め込まれてレゴラスの瞳が悦びに揺れるのを男は眺める。
アラゴルンが腰をぐいと引いて、快感を引き出す部分に男根を擦り合わせた 瞬間、エルフの高い頬骨に赤味が差した。
「ああ、お願い−−」

腰を引き、それから強く前に突き出してエルフの唇からすすり泣きの声を引き 出しながらアラゴルンはにやりと笑った。
前後運動をだんだん激しいものにするうち、そのリズムにあわせるように二人の 喘ぎも激しさを増す。

剣蛸のできた掌が疼く中心を包み込み、彼の内部を打ち付ける男根の動きに 合わせて動き始めると、レゴラスは血が滲むほど強く唇を噛み締めた。
もはや彼は、自分の口から漏れ出る声など気にもとめなかった。
アラゴルンが勝ち誇った表情で彼を見ていることなども。
この瞬間においては、レゴラスは我を失い、もはや旅の仲間のことやガンダルフ のこと、あるいはこの先彼を待ち受ける新たな悲しみのことなども全く気にも とめていなかった。
今夜だけは。どんな責任も負う必要はないのだ。

永い間秘められていた場所からの叫び声を上げると同時に、レゴラスはアラゴ ルンの手中に吐精した。
そしてもう二突きほどののち、野伏の頂点もそれに続いた。

注意深く己を引き抜いて、アラゴルンは友の側の湿った大地に倒れ込んだ。
彼を見上げるエルフの頬に荒れた指先でそっと触れる。

「負けを認めるのも、そう悪くはないだろう?」
優しく訊ねる。
先程までの苛烈さは跡形もなく消え失せていた。

レゴラスは男の手を取って、傷だらけの掌に口付けた。
「そうですね」
そう呟く。
心は、晴れ晴れとしていた。
「全く、悪くはありませんね」



The End
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