Bound(縛め)






レゴラスは猛烈に怒っていた。

泥濘に足を取られて転んだせいで捻った足首を掴んでいるギムリの側で、ぎゅっと拳を握り締める。ドワーフが痛みにうめきを漏らしながらもどうにか身を起こした。
「折れてるかもしれんが、ひどくは無さそうだ」
そう云って、頑丈な戦士は息をついた。

しかしその声も、頭に上った血でがんがんと耳鳴りがするレゴラスにはほとんど届いていなかった。彼は前方の木々の間を無頓着に突き進むアラゴルンの黒い姿に目をやった。情け容赦のない速度で進むことのみに捕われたあの人間は、仲間を後に残していることさえ気づいていまい。レゴラスは野伏を呼ぼうとして、考えを変えた。アラゴルンに対処するのは自分ひとりでいい。

彼はギムリの側に膝をつき、彼が木の根っこに楽に寄りかかれるように手を貸した。重そうなブーツの上からでも、ドワーフの足首がすでに腫れあがっているのが見てとれる。
「履いたままにしておくほうが良いでしょう」
彼の足を慎重に岩の上にもたせ掛けながらレゴラスは云った。
「ブーツの上から縛って固定しておきます。さもないと、一度脱いだらもう二度と足が入りませんよ」

「これしきの怪我で遅れをとるわけにはいかん」
ギムリが額に汗を滲ませながらも、不平そうに云った。
「添え木をすれば、歩けるわい」

レゴラスは自分のチュニックの裾を引き裂きながら、どうにか微笑んだ。
「あなたなら両足が折れていてもカラズラスに登るのだってわけない、とは思いますがね、屈強な戦士さん、だけど今日はこれ以上怪我を悪くする必要はありませんよ。1日の遅れは大したものではありません」

レゴラスは優しく云ったが、ギムリはエルフに足を縛られながらもフンッとやじった。
「そういってアラゴルンを説得できれば良いがな。あの人の子はまるでモルドールを一時間で越えてしまう勢いだぞ」

足を縛り終えたレゴラスは、当惑して顔をしかめた。
「アラゴルンは関係ありません」
ドワーフに静かに語りかける。前方の木々に目をやったが、かの人間が視界から消えてしまっていることにもはや驚きもしなかった。
「私が彼に、休息を取ることの賢明さについて納得させます」

ギムリが疑わしそうに鼻を鳴らした。
「それでは、ナイフを用意してゆくんだな」
半ば本気で、そう忠告する。
「アラゴルンはなにやら取り付かれておるぞ」

取り付かれている、そして−−レゴラスは思った−−だからこそ、危険だ。
しかし彼はその不安を隠し、ドワーフのために笑いかけた。
「ゆっくりお休みなさい、友よ。私に任せて。その間に、火をおこして何か食べるものを用意しましょう」
そう云いながらすぐに彼は夜営の準備をし、ギムリに食事をさせて、折れた足首をできるだけ具合良く休ませるのを見届けた。

「気をつけろよ」
レゴラスが立ち上がって野伏を探しに行こうとするのに、ギムリが再度警告してきた。
「アラゴルンには責任が重く圧し掛かっておる。どんな欠点があるにせよ、奴の真意は崇高なところにあるのだからな」

レゴラスは軽く頷くと、すぐ戻ると約束してその場を後にした。
アラゴルンが通ったあとを追って、木々の間を素早く駆け抜ける。

夕闇が丘の向こうに迫っていた。きっとアラゴルンも夜営を張ろうとして、彼らの不在に気づいたはずだ。
しかし、その野伏の姿や気配はどこにも感じられず、レゴラスは走り続けた。ついにレゴラスが彼の姿を視界に捉えたとき、空はすでに端を暗い夕紫に染めていた。エルフは歩調をゆるめ、静かにそっと歩み寄った。

アラゴルンは木の横に立ち、ごくごくと水を飲み干しているところだった。
水袋を下ろした人の子の表情に深い不満が表れているのが目に入り、レゴラスは動揺した。
アラゴルンは、ちっとも彼らを心配している様子がない。
むしろ、エルフとドワーフを探すために進むのをやめなければならなかったことに、腹を立ててさえいるようだった。
こんな人ではなかった、とレゴラスは思う:アラゴルンは仲間に対して、もっと物事を委ねあう人間だったはずだ。
しかし今、野伏は間違いようもなく憤っていた。
苛立ちが、警告灯のように瞬いている。あとの二人が自分を見つけるのが当然だ、と云わんばかりに。

その瞬間、レゴラスは、アラゴルンと話し合うのは至難の業だと悟った。今までの経験上、一旦感情の波に負けてしまったこの人の子を説得することは、滝の流れを逆さにするのと同じくらいに困難だ。

「ああ、すみませんが、こうするしかありませんね」
レゴラスが残念そうにつぶやいた。
そして弓を構え、注意深く狙いを定めると、矢を射た。

アラゴルンはその音にはっと身構えたが、かわしきれなかった。矢じりが捲り上げられた上着の袖を貫き、そのまま背後の木の表面に深く突き刺さった。水袋が地面に落ちる。また空気がうなり、もう一本の矢が暗闇から飛んできたかと思うと、もう片方の袖をも貫いた。アラゴルンはもがいたが、今や2本の矢が彼の両の腕を木に縫いとめていた。

「一体何のつもりだ?」
森の向こうから現れたレゴラスに語調を荒げる。
「遊んでいる暇はないのだぞ、レゴラス。ギムリはどこだ?俺達はメリーとピピンを見つけねばならんのだ!」

「遊んでいるのではありません、アラゴルン。ギムリが足首を骨折したのです。彼を夜営地に置いてきました」

アラゴルンがもがくのをやめて、眉をひそめた。
「足首を折った?いつだ?」

レゴラスは溜息をつき、野伏の前まで来て足をとめた。
「ホビット達を探さねば、という貴方の気持ちはわかります、アラゴルン。だけどその速度では体力と精神が持ちません。ギムリが倒れたというのに、あなたは急ぐあまりに無意識に我々を見捨てようとしている。ギムリほどの強い心の持ち主でも、こんなやり方ではついていけませんよ。彼には少なくとも一日、回復の時間が必要です」

人の子の表情が、痛みに暗さを増した。
「一日我らが遅れをとる、ということは、それだけ長くメリーとピピンがあのけがわらしいオークの手中に置かれる、ということだ。そんなことはできん−−いや、させん。悪いとは思うが、ギムリは置いていくしかあるまい」

ショックで一瞬、レゴラスは言葉を失った。
こんなのは彼の知る人の子ではない。ふいにガンダルフとボロミアの顔が心に浮かんだ。この彼の変化は気づかぬ間に、だがレゴラスの真近ですでに起こっていたのだ。

「アラゴルン」
彼は近づきながら訴えかけた。
「まさか、本気ではないでしょう。ギムリ一人を置いていくなんてできっこありません。彼は怪我をしているのですよ。自分の身を守ることさえ難しいはずです」

明らかな恥心の色が人の子の蒼い瞳をよぎった。
「それならばお前が彼の側に残れ。俺が一人でホビットを探しに行く。俺は彼らに対する責任がある。もう失敗はしない。他の者の時にしたようには」


人の子を見つめるレゴラスの内を大きな悲しみが襲った。
ガンダルフを失ってのち、仲間を導く役目はそれまで他人の運命を左右することなどに何の興味も持っていなかった一人の男の肩に落ちてきた。
アラゴルンが決して欲したこともないその重荷は、今や彼の上にとてつもない重さで圧し掛かっている。
「あなたはただの人の子にすぎないのですよ」
レゴラスはそっと言い聞かせるように云った。
無精ひげの生えた顎をとらえ、彼の蒼い目に視線を合わせた。
「私たち全てを貴方の保護のもとに置こうとするなんて不可能です」

「他に道はないのだ!」
アラゴルンが怒って吐き捨てた。
「ガンダルフは俺に仲間達を託したのだぞ、レゴラス。なのに俺はボロミアを失った。フロドも守りきれなかった−−俺を自由にして、そして為すべきことをさせてくれ!」

「いいえ、貴方は馬鹿なことを−−」

「俺を自由にしろと云ってるのだ、レゴラス。エルフと違って、俺にとって命の生き死には大事なことなのだ!」

憤りで、エルフの瞳が見開かれた。背筋を冷たいものが走り抜ける。
「言葉に気をつけるのですね、’人間’よ」
その語調には、今まで決して使われたことのなかった軽蔑が込められていた。
「私が貴方を解放したって、どうせ貴方はオークの手におちることになるだけでしょう。そうなれば、私だって構います。私が側にいなければ、先を急ぐ余りにものが見えなくなっている貴方なんて弱い存在です。ご自分が何者か、忘れていらっしゃるようだ。貴方は癒し手、人の子の先頭に立つ者、王になるべき人です。いくら貴方が強いからといって、貴方一人では無敵ではありえないのですよ」

アラゴルンが顎をあげた。
「お前と闘えるくらいの力は十分にあるぞ」

ぞっとするような愉悦がレゴラスの唇を歪める。
「本当に?私がほんの軽く触れるだけで、貴方を打ち負かせると賭けてもよいですよ」

アラゴルンが笑った。
「自慢なぞお前には似合わんぞ」

レゴラスの頭の中で警鐘が鳴り響いていた。
「では、貴方が間違っていると証明して差し上げます」
警鐘がさらに大きくなったが、彼はそれを無視した。彼は人間のもつ数多い弱点を熟知していた。特に、アラゴルンの。人の子の視線を捕らえながら、レゴラスは手のひらを男の胸に置いた。
「もし私が貴方にご自分の弱さを見せることが出来たら、ここに留まって私たちを待つと云ってくれますか?」

初めて、怒りが諦観に取って代わった。
「そんなことをする暇があれば、メリーとピピンのことを考えたらどうだ。それくらいの分別はないのか?」
レゴラスが黙ったまま、無表情でいると、アラゴルンは疲れたように溜息をついた。唇を舐めて云う。
「俺を解放するまえにどうしてもそれが必要だと思うのならば、やってみるがいい。好きにしろ」

レゴラスはほっと安堵したが、奇妙なことに、緊張は解けなかった。アラゴルンの胸元に手を絡め、服を掴む。
「貴方がご自分を強いと思っているのと同じくらい、いかに貴方が弱い存在なのかを教えて差し上げます。忘れないで、アラソルンの子アラゴルン、それこそが、貴方が盲目的に突進しようとする時に貴方の歩調を緩めてくれるものに他ならないのですよ」

彼が手を上げると同時に、アラゴルンが殴られる覚悟をするように身構えた。だが、レゴラスが与えようとしている責め苦は、全く違ったものだった。人の子の頬に、ひどく優しく手のひらを重ねる。
アラゴルンがたじろいで頭をうしろに避けたが、レゴラスは接触を絶とうとはしなかった。人の子の無精ひげが手のひらの下でちくちくとした感触を残した。
しかし親指で人の子の下唇を撫でると、それは意外にも柔らかかった。

「やめろ」アラゴルンが突然囁いた。
彼の瞳を覗き込んだエルフは、そこに恐れの感情を読み取った。
「何故こんなことをする?」

レゴラスは、自分の親指が人の子の唇の上を行ったり来たりしながら野伏の口を優しく開けさせようとするのを眺める。
「我々は、時には自分が劣った存在だと学ぶことが必要です。あなたはご自分が一介の人の子に過ぎないということをお忘れのようだ。それを私が思い出させて差し上げます」

エルフはアラゴルンの両肩に手を置き、そして唇を押し付けた。野伏は身動き一つしなかったが、レゴラスは口付けをやめようとはしなかった。軽く触れ合わせながら、男の唇の上を優しくなぞる。それをしばらく続けたのち、彼はアラゴルンの上唇をはみ、そして下唇を己が口の中に引き入れた。レゴラスが厚ぼったいその肉を軽く吸うと、人の子の身体を震えが走り抜ける。エルフは口を大きく開け、舌を閃かせて頑なに閉じられたままの歯列をつついた。

「開けなさい」
レゴラスが囁いた。
「あなたを傷付けやしないから」

アラゴルンはあたかも侮辱を受けたようにうなったが、結局エルフの探るような舌を受け入れた。男の熱い息が流れ込み、レゴラスの身体も熱くなる。舌を野伏の口内奥深くに差し入れると、硬くて滑らかなアラゴルンの舌が待っていた。二つの舌は最初のうちはぎこちなく、それから次第に大胆に絡みあった。

レゴラスはこうなることを予測していた。
裂け谷を出て以来、アラゴルンと交わす視線の内に潜む欲望に、彼は気づいていた。
そう、かの人間が自分を求めていたことは知っていた。ただ、その激しさに対する準備ができていなかったのだ・・・アラゴルンが自分に向かってくる、その激しさに。身体が、かろうじて抑制された情熱にあからさまに震える。エルフは人の子との熱烈なキスに、自分自身が捕まってしまった。この状況を自分でコントロールできなくなってきていると感じながら・・・。

レゴラスはアラゴルンの髪に指を絡め、人の子の頭を強く引き寄せた。低いうめきがアラゴルンの喉からエルフの中に流れ込む。どうしてそうなったのか分からないうちに、レゴラスは自分の身体全てが野伏のそれに押し付けられて、触れ合う全ての場所で弾けるような熱い感触を覚えているのを自覚した。アラゴルンが腰の辺りを突き出してきたのと同時に、レゴラスの中で眠っていた竜が目覚め、身体のうちで熱く蠢いた。

野伏の肌がはけ口を求めるかのごとくに燃え立っている。
それに身を焦がされるのを感じ、レゴラスはアラゴルンが抗議のうめきをあげるのを無視して唇をもぎ離した。
そのまま薄く髭で覆われた男の顎に沿って唇と舌をなぞらえる。
人の子の喉のくぼみに走る脈動を見つけ、そこを舐めあげた。
エルフが身を起こして後ろに退こうとすると、アラゴルンは矢で縫いとめられているにもかかわらず、レゴラスを掴もうとした。

「行くな−−」

その切羽詰った懇願に、レゴラスの身の内は熱情で溢れんばかりになった。本能的に、持っていた弓と矢筒を投げ捨て、そしてチュニックの紐を素早く解く。途端にひんやりとした空気が熱に浮かされた肌に触れた。その酔いを覚ますような感触に、我に帰る。
レゴラスは瞬きをした。腕をおろす。
自分は一体、何をしているのだ?
もうすでに自分はアラゴルンを打ち負かした。彼の、エルフに対する欲望の前にはなす術もない、という弱さを証明したではないか。
何故、その先を続ける必要が?

「レゴラス」

エルフは顔をあげて、縛められた野伏を見た。
アラゴルンが恐ろしいまでの渇望を湛えて彼を見つめている。
「チュニックを脱げ、レゴラス」
その語調は、もはや要求ではなく、命令だった。

「いいえ、もう十分です。私は−−」

「その、服を、脱げ」
アラゴルンが噛み付くように云った。

欲情の波が身体を突き抜けるのに耐え切れず、レゴラスは目を閉じた。
「云うとおりにしろ」
アラゴルンが続ける。その声は低く、掠れていた。
「お前が始めたことだ。最後までちゃんと終わらせてやる。脱ぐんだ」

レゴラスが腕を上げてチュニックの裾を掴み、ぐいと引っ張りあげようとすると、アラゴルンの声がその動きを止めさせた。
「ゆっくりとだ」
男が、闇い欲望に眼をぎらつかせながら指図する。
「ゆっくりと脱げ」

頬骨が燃えるように熱くなったが、レゴラスは動きを緩慢にした。
ざらざらとした布を持ち上げ、少しづつ素肌を露わにする。
冷え冷えとした空気が胃の辺りを締め付けたが、身体中に鳥肌が立ったのは、アラゴルンの揺るぎない視線のせいだった。
彼は動けないように木に貼り付けられたままだったけれども、レゴラスにはまるでチュニックを脱がせているのがアラゴルンであるかのように感じられていた。
布地がレゴラスの胸の上の辺りまで来た時、野伏の熱い蒼眸によって高められたエルフの乳首は、あたかも男の指に抓まれたかのごとくに硬く立ち上がった。

「寒いのか」
その反応に気づいたアラゴルンがつぶやいた。
男が舌を閃かせて唇を湿すのを見て、レゴラスは思わず上がりそうになるうめきをこらえる。エルフはチュニックを完全に頭の上から引き抜き、それを地面にすべり落とした。

「こっちに来い」人の子が云った。
レゴラスは身体が発熱するのを感じながら、彼に歩み寄った。
「指を出すんだ」
レゴラスは一瞬ためらって、それから己の人差し指を男の開いた口に滑り込ませた。
それにアラゴルンの濡れた舌が絡みつくのに、エルフの膝から力が抜けてくず折れそうになる。そうして男が指を舐め、吸い始めると、彼はズボン下の中の自分自身が痛いほどに勃ち上がるのを感じた。
思わず震える瞼を閉じるのと同時に、アラゴルンが口を開けた。
レゴラスは目を開けて、指を引き抜いた。アラゴルンが笑う。
「さあ、自分で触ってみろ」

レゴラスは顔が赤くなるのを感じた。暗闇がそれを隠してくれていればよいのだか。
男のあからさまな視線に目を合わせることが出来ず、彼は視線を落として自分の指で自分の乳首に軽く触れた。
「あ・・・っ」
息を吐き、するどい快感にびくっと身を震わせる。
小さな突起の周りにゆっくりと円を描くように指を動かし、その肌にアラゴルンの唾液を塗りつけた。それに冷たい空気が刺すように触れ、彼の乳首がさらに固さを増す。
レゴラスは身震いし、手をもう一方の乳首に移動させて、濡れた指でそこを摘み上げた。

アラゴルンが木に押さえつけられたまま身じろぎし、荒い息遣いの下で罵りの言葉を呟くのが聞こえた。レゴラスは視線を上げなかった。代わりに、彼は目を閉じてもう片方の腕を胸の高さまで上げた。

これまで、自分の手や指の微細な感覚にここまで感じたことはなかった。弓を扱うせいで硬くなった皮膚が、感じやすい皮膚の上で思わぬ快感を引き起こす。今まで大した用途を持つとも思っていなかった爪が、胸郭を楽器のように撫で下ろすことによって火をつける。

しかしさらに興奮を高めるのは、その感触を彼に施しているのが’彼’−−アラゴルン−−だと想像することだった。今、レゴラスの鎖骨を愛撫しているのは、アラゴルンの巧みな親指だ。締まった肋骨や胃の辺りを辿っているのは、野伏の器用な指だ。
レゴラスは腰の辺りまで指を下げ、引き出されためくるめく感覚に大きなうめき声をあげた。アラゴルンがそれに答えるように唸る。自分が−−二人が−−生み出す悦びに浚われながら、レゴラスは野伏が発した言葉をかろうじて聞いた。

「レゴラス、ズボン下を脱げ」
エルフがゆっくりと目を開けた。アラゴルンの表情は暗く、欲望にぎらついていた。
「脱ぐんだ」
男が掠れ声で繰り返す。
「脱いで、お前を見せろ」

もはやこの場のすべての主導権を失ったことを自覚し、どうでもよくなって、レゴラスはズボン下に手をかけた。手の触れる距離に自身の喜悦の源が来て、レゴラスは自身が最高潮に燃え上がっているのに気づく。ズボン下の締め付けでずきずきと疼くそれ。脱げば、きっと楽になる。

「さあ、早く」
アラゴルンが矢の縛めに無駄にもがきながら急き立てた。
「脱ぐんだ」

男の明らかに無力な状態は、レゴラスを大胆にさせた。アラゴルンに視線を合わせながら、服の縁に親指をかけ、そしてゆっくりと張り出した自身の突起の下まで下げていく。視線を合わせたまま、彼はズボン下を脱ぎ捨てて、そして待った。

アラゴルンが仰け反らせた頭が木にぶつかり、鈍い音を立てた。男の足の間で、隠しようもなく、欲望が燃え上がっている。目の前に立つエルフの裸体に、アラゴルンの蒼眸が崇拝の色を湛えた。

「ああ、お前は美しい、レゴラス」彼は溜息をついた。
「俺がどんなにお前をこの口で包んで、その肉のすべてをしゃぶりつくしたいことか」
レゴラスが身震いすると、彼は辛そうな笑いを発した。
「言葉が手に取って代わるなら、俺がお前を解き放ったということだな、俺の美しきエルフよ。もう少し解きほぐしてやろうか。その可愛らしいソコを手で掴め」

レゴラスは云われたとおりにした。その摩擦でさらに極限まで追いやられ、鋭い息を吐く。

「どんなふうに感じているか云ってみろ」
アラゴルンが急き立てた。

レゴラスは指を広げ、はちきれんばかりの己の肉の形や窪み全てを検証するように探った。鈍く光る滴りの上に指を這わせると、爆発的な悦びで身体が痙攣する。

「かなり硬くなってきたな」
アラゴルンが張り詰めた声で続ける。
「どれだけ硬いか、云ってみろ」

「ああ、そうです!」

自身に軽く触れながら、レゴラスが切羽詰った様子で答えた。
「今は、まるでアンドゥリルと同じくらいに硬くなってる。痛いけど、でも気持ちよすぎて」
彼は堪えきれずに自身をしごき始めた。

しかし、アラゴルンはそれを許さなかった。
「駄目だ!」激しい口調で抗議する。
「ゆっくりやるんだ。俺がこの拷問に苦しまなければならないのなら、お前だって苦しめ。目を閉じるんだ、レゴラス」
彼はエルフがそれに従うのを待った。
「そして、お前に触れているのが俺の手だと想像しろ。俺がお前を扱いている。ゆっくりと、しかし確実にな。俺の手がお前のソレを測り、俺の奥深くに入れたときどう感じるかを探っているのだ」

レゴラスはかすかな鼻声が自分から漏れ出すのを止めることが出来なかった。腰を前に突き出し、手の中でさらに速度を増そうとする。
彼は平静を保とうとした。

「どれだけ硬くなっているのか、感じろ。その熱さを」
アラゴルンの声が野太さを増した。
「濡れているのを感じろ。俺の為にしたたった、その先走りを」

これはまさに拷問だ。レゴラスは思った。親指を高ぶりの最も感じる先端に塗りつけながらも視線を外さずにいることは至難の業だった。先走りがからかうように流れ落ちるひとつひとつの感触が、痛いほどの愉悦に彼を震わせた。

「十分濡れたか?」

「ええ・・・」エルフが喘ぐ。

アラゴルンの声にいやらしい笑いが滲んだ。
「そうは思わんぞ。滴り落ちるくらいでないとな、レゴラス」

エルフ語の悪態が空をきった。
「私にあなたを傷つけさせないで、アラゴルン」

「ああ、しかしそれこそが俺の求めているものだ」
身体中の血が逆流し、レゴラスの耳ががんがんと鳴った。
「さあ、俺の中にソレを突き立てろ、レゴラス。押し込むんだ、強く!」

レゴラスは拳を握り締め、安堵のうめきをあげながら前に強く押し出した。彼の心の中では、押し入っているのはアラゴルンの身体だった。彼を絶妙に締め付けているのは人の子の引き締まった肉だった。手の中で無心に抽挿を繰り返すうち、エルフの唇が解かれた。野蛮な突きのひとつひとつが、王になるべき人の子の最奥を突き刺す。頂点近くまで登りつめ、喘ぎながら叫びを発する自分の声を聞く。アラゴルンが話し掛け、促すような声をかけてきたが、レゴラスにはもはや言葉を理解する理性は残っていなかった。深く、さらに深く、アラゴルンの奥に突き入れて−−

ようやく、人の子の声が彼の集中を突き破って届いた。
「俺をイカせてくれ、レゴラス−−」

もう耐え切れない。レゴラスは喘ぐと、激しく身を震わせた。熱い迸りが手の中から零れ、地面に撒き散らされた。目の奥で光がちかちかする。彼はその場にくず折れたくなった。

「レゴラス−−」

アラゴルンの息の詰まりそうな声に呼ばれ、エルフは顔をあげた。人の子は矢の縛めを死に物狂いで解こうとしていたが、彼の腕は苦痛の源に遠く届かない。レゴラスは残った力を寄せ集めて木のほうへにじり寄り、野伏の前に膝をついた。人の子の男根は今や破裂しそうに膨張していた。レゴラスが口の中に素早く含むと、アラゴルンは思わず声をあげた。

アラゴルンが解放を迎えるまで、そう長くはかからなかった。エルフの舌が幾度か舐めこすっただけで、アラゴルンは爆発的な痙攣を起こして達し、力なく縛めにぶら下がった。
レゴラスは唇に残る人の子の体液を舐め取ると、立ち上がった。残った力の全てを使って、足を木に踏ん張って矢を引き抜く。腕の中に、アラゴルンが倒れ込んできた。

「お前は俺の弱さを証明した」
アラゴルンが荒い息をつきながら、うしろに凭れかかった。
「お前の勝ちだ」苦笑が浮かぶ。
「ことお前に関しては、俺はどうやら嘆かわしいほどに死すべき存在になるらしいぞ、我が美しきエルフよ」

レゴラスが痛ましげに首を振った。
「私が無作法にも証明して見せた、この弱さというのは何も人の子だけの本分ではありませんよ。私たちのどちらも、どうやらお互い無しでは、強くいられるとは云えないということです」

アラゴルンが頷き、最前の真剣さに戻った。
「ギムリが治るまで、先に進むのは待とう。旅の仲間はもう十分すぎるほどに離散した。これ以上散り散りにはさせん」

エルフがほっとして微笑んだ。
「私の望みはそれだけです。ありがとう」

と、突然野伏の顔に楽しそうな笑みがこぼれた。
「ああ、だけどレゴラス、ひとつ不思議なんだが。せっかく有難いご教授をくれようとしたセンセイが、逆に生徒から教えられた、ということになったな」
彼は笑った。
「どうしてそうなってしまったのかな?」

レゴラスが彼を睨みつける。
その夜二度目の、エルフ語の悪態が空に響いた。

The End





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